大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)10110号 判決

原告(参加被告) 中田清一郎

参加原告 神崎まつ子

被告(参加被告) 東信用組合

主文

被告は原告に対し金五十万円とこれに対する昭和三十一年十一月十七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

参加原告の請求を棄却し、その豫備的請求を却下する。

訴訟費用は原被告間の本訴預金事件に付ては被告の負担とし当事者参加事件については参加原告の負担とする。

本判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は先ず被告に対し主文第一項同旨並に訴訟費用は被告の負担とするとの判決と仮執行の宣言を求め、請求原因として訴外丸菱株式会社は被告に対しいずれも期限昭和三十一年十一月十六日の元金三十万円及び元金二十万円の二口の定期預金債権を有していた。そして原告は右訴外会社に対する貸金債権金一千七百万円中東京法務局所属公証人長宗純作成昭和三十一年第六二五号債務承認弁済契約公正証書元金五十万円の執行力ある正本に基いて右定期預金債権につき東京地方裁判所昭和三一年(ム)第一〇〇九号事件で、債権差押並に転付命令を得て同年九月四日午前十一時三十分右命令が被告に送達せられ、原告は該預金債権の移転を受けた

しかるに(イ)被告は右定期預金債権につき参加原告神崎まつ子より訴外丸菱株式会社に対する東京地方裁判所昭和三一年(ヨ)第五〇九〇号債権仮差押命令を同年九月四日午後六時三十分に送達せられたことを理由に期限到来しても右預金の支払に応じない、また(ロ)被告はその上次の理由でも支払を拒絶している。すなわち被告は元来訴外丸菱株式会社に対し右預金を担保に金百五十万円を貸付け参加原告神崎がその所有名義に存する不動産について右貸金債務のため抵当権を設定した物上保証人であつたところ訴外神崎が本件転付命令送達前に第三者として該債務を弁済したので法定代位によつて右定期預金の上に被告が有する担保も当然弁済者たる訴外神崎に移転しているというのである。

しかしながら(イ)については前記のように原告の転付命令は訴外神崎の債権仮差押命令より七時間も前に送達せられているのでこれと同時に原告が当然債権者となつているのでその後訴外丸菱株式会社の前記定期預金債権としてなされた右仮差押命令は無効である。又(ロ)についても訴外神崎が果して実質上該不動産を所有していたかどうか問題であり、真実代位弁済をなしたとの点も原告は争うのであるが、たとえそれが真実であるとしても、被告は本件預金債権を担保としたとするなら法律上債権質の方法による外なく、しからば民法第三六四条の手続を要し従つて同条によつて準用される同法第四六七条による通知又は承諾について確定日附がなければ第三者に対抗できない。しかるに被告としては右の手続を少しもとつておらない。ただ法律上債権債務が対立状態にあることから被告において訴外丸菱株式会社が貸金不履行の場合に相殺できるのでこれによつて実質上担保の目的を達し得るものとされているに過ぎない。もつとも右訴外会社から被告に担保差入証を提出してあるが、その趣旨も右の関係を明確にした上貸金決済までは預金債権を他へ譲渡することを禁止する意味以上のものでない。かりに右差入証の趣旨が債権質の設定であるとしても、前述の如き民法第四六七条による通知又は承諾もなく、かりにそれが口頭であつたとしても「確定日附」がないので第三者たる原告に対しては「債権質」を対抗できない。しかして法定代位の効果は民法第五〇一条により「債権の効力及び担保として其の債権者が有せる一切の権利」を行うことができるのであるが右にいう「担保」を第三者に対抗する場合には「法律上第三者に対抗でさる担保」でなければならないことは当然である。従つて右担保にして第三者たる原告に対抗できない以上右担保の代位権者もこれと同等以上の法律上の効力を取得するに由なし。

以上により被告が本件預金債権の弁済を拒否する理由のないことは明白なので被告に対し右債権合計金五十万円とこれに対する右預金支払期日の翌日である昭和三十一年十一月十七日より完済に至るまで年六分の割合による損害金の支払いを求めると述べ

参加原告の請求に対しその棄却の判決を求め、答弁として参加人主張事実の又原告の主張に相応する部分を認めるがその他の点を争う、原告が前記述べた理由により参加人は右預金債権上担保権を取得するに由なしと述べ参加原告の豫備的請求に対し、これは本訴の訴訟物と少しの関係もないので参加要件を欠くから不適法として却下を求めると述べた。

被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として原告主張事実を認めるが法律上の見解については争う。

参加人の請求に対しそれを棄却するとの判決を求め答弁として被告が原告の請求原因に対する答弁として述べた点を援用し、これに牴触する点を争う。なお参加人の豫備的請求は本訴と何等関係がないので民事訴訟法第七十一条の参加要件を欠くので不適法であるからこれが却下を求めると述べた。

参加原告代理人は、参加被告中田清一郎(本訴原告)は本件五十万円の預金債権とこれに対する昭和三十一年十一月十七日以降完済に至るまで年六分の割合による損害金債権は参加原告に属することを確認する。参加被告東信用組合(本訴被告)は参加原告に対し、金五十万円とこれに対する昭和三十一年十一月十七日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は参加被告等の負担とするとの判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として参加原告は、昭和三十一年五月十六日訴外丸菱株式会社が被告東信用組合より金百五十万円を借用するに当り右会社代表者より欺罔され同会社のため参加原告所有の不動産を担保として被告組合に提供し、同年八月十五日訴外会社に代り右元金一百五十万円と利息三千六百円合計金百五十万三千六百円を被告組合に弁済した、而して一方被告組合は訴外会社に前記貸金をするにつき訴外会社より原告主張のような二口合計五十万円の預金債権を担保としたので参加原告の右代位弁済の結果、法定代位により本件預金債権についての担保権を行うことができる。

原告はその主張のような転付命令により昭和三十一年九月四日右各預金債権を取得したと主張するが参加原告の右債権担保権の取得はそれ以前であることは右の如く明白であるし、参加原告の右弁済は正当の利益を有するものの弁済であつていわゆる法定代位の場合であるからいわゆる任意代位と異り債権担保権の移転については対抗要件を履践する必要はない。よつて原告に対し、右各債権が参加原告に属することの確認を求め、被告組合に対しては右債権合計五十万円とこれに対する右弁済期の翌日である昭和三十一年十一月十七日より完済まで年六分の割合による損害金の支払いを求める。

豫備的請求として、仮に参加原告において右預金債権を取得し得ないものとしても、参加原告は書面を以て昭和三十一年八月十七日被告組合に対し右担保権の引渡方を請求し該書面は翌十八日同組合に到達した。よつて金融機関たる被告組合は直ちに債権担保移転に必要な手続をなすべきにかかわらず漫然日時を経過している内、前記代位弁済期日より二十日をへた同年九月四日原告中田によつて前記預金債権は差押えを受けるに至つたのである。これは被告組合の債務不履行乃至不法行為に基き参加原告の当然取得し得べかりし権利を喪失せしめたのであり、その損害は被告組合の賠償すべきところ、右損害は結局、前記預金債権と同額と称すべきであるから、被告組合に対し参加原告の前記本訴請求と同額の金員の支払いを求めると述べた。

理由

参加原告の豫備的請求に関する事実と当事者の法律上の見解を除き、その他の事実は当事者間に争いがなくもしくわ明かに争わないものと認められる。しかして参加原告の訴外丸菱に対する本件預金債権を目的とする債権仮差押命令の送達が原告の債権差押転付命令の送達よりおくれているので、右差押転付後の仮差押は転付権者に対抗するに由なく、また、参加原告の弁済による担保権の法定代位の点についても、原告代理人主張と同一の見解の下に当裁判所も被告組合の本件担保権の取得は原告に対抗し得ないものといえるので参加原告もこれを原告との関係において有効に被告組合から移転取得するを得ないものと解すべきである。

参加原告は事実摘示のような理由に基き豫備的請求をするが、本件において参加人が当事者として他人の訴訟に参加したのは原被告間の訴訟の目的が自己の判断であることを主張するにあり、今参加人のこの請求が排斥せられる場合にそなえて豫備的請求をすることは、一見訴訟経済上是認せられるような感がないでもない、しかしこの豫備的請求がたとえ参加人の本訴と請求の基礎において同一であるとしても本件豫備的請求の目的は、債務不履行乃至不法行為に基く損害賠償請求権であり、原被告間の本訴は前記預金債権の帰属を争うのであるから両訴は訴訟の目的を全然異にするものというべく、而して右参加に便乗して、本訴の目的と異る請求にまで、これを拡張変更するような場合、特に本訴の如きは参加人の豫備的請求により原告にとつては全く無関係の訴訟によつて自己の本訴の確定をおそくされる結果ともなるので民事訴訟法第七一条所定の当事者参加の要件である「訴訟の目的が自己の権利なることを主張する場合」はこれを厳格に解決する必要があるのであり、一般の訴の拡張変更の数とこれを同一に論ずることは許されないものと解する。従つて本件参加原告の豫備的請求の如きは不適法というの外はない。

よつて原告の被告に対する本訴請求は正当として認容し、当事者参加人の請求は失当として棄却すべく、またその豫備的請求は不適法として却下すべく民事訴訟法第八九条第一九六条を適用し主文のように判決をする。

(裁判官 柳川真佐夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例